塗膜上からの測定(膜厚が信号に及ぼす影響)

渦流探傷は、ペンキ等で塗装された金属の上から実施することも可能です。ただし、塗装がなされていると、プローブと素地(金属)の間には膜厚分のギャップ(間隔)が生じます。プローブと試験体の間のギャップが広ければ広いほど(膜厚が厚ければ厚いほど)、渦流探傷の検出能力を低下させるため注意が必要です。
ここでは深さが0.1mm、0.2mm、0.5mm、1.0mmの人工きず(EDMによるスリットきず)を用い、膜厚を変更した場合に感度および信号にどのような影響を与えるのかを、鉄・ステンレス・アルミニウムの3種類の試験片を用いて確認します。
膜厚(ギャップ)と信号レベルの関係
膜厚が厚くなれば、素地とプローブとの距離は遠くなるため、検出能力は低下します。膜厚を0.1mm、0.2mm、0.6mmと変更することで、人口きずからの信号にどの程度影響を与えるのかを確認します。
試験条件
試験片 (JIMA ET TM-02) |
プローブと試験片の間隔t | 探傷器の設定 | 使用プローブ | |||
---|---|---|---|---|---|---|
GAIN*1 | FREQ*2 | ROT*3 | ||||
スリット深さd(mm) | 材質 | (mm) | (dB) | (Hz) | (DEG) | |
0.1 0.2 0.5 1.0 |
鉄 (S45C) |
0.1 | 34.8 | 8M | 138 | ペンシル型 自己誘導 単一方式 PS-.187 8MHz |
0.2 | ||||||
0.6 | ||||||
ステンレス (SUS304) |
0.1 | 46.2 | 8M | 74 | ペンシル型 自己誘導 単一方式 PS-.187 8MHz |
|
0.2 | ||||||
0.6 | ||||||
アルミニウム (A2024) |
0.1 | 42.2 | 500k | 256 | ペンシル型 自己誘導 単一方式 PS-.187 500kHz |
|
0.2 | ||||||
0.6 |
*1 感度(GAIN)--- スリット深さ1.0mmで、V出力のピークを4vとする。
*2 試験周波数(FREQ)--- プローブの規定値とする。
*3 位相角(ROT)--- リフトオフを水平とする。
試験結果
膜厚を0.1mmから0.2mm、0.6mmと厚くするにつれ、人口きずからの信号レベル(高さ)が低くなりました。膜厚0.1mmのきず信号に比べ、膜厚0.6mmのきず信号は1/5以下の高さになり、劇的に低下しました。
実際の計測において検査箇所の膜厚が一定であれば問題ありませんが、膜厚にムラがある場合は、同じ深さの割れ(きず)でも渦流探傷器に表示される信号の高さは異なりますので、余裕を持った感度設定が必要です。
*塗膜の厚さがきず信号に与える影響は、渦流探傷器の設定、使用するプローブの種類等により変わります。
膜厚0.1mm
試験片 鉄(S45C)

膜厚0.2mm
試験片 鉄(S45C)

膜厚0.6mm
試験片 鉄(S45C)

膜厚0.1mm
試験片 ステンレス(SUS304)

膜厚0.2mm
試験片 ステンレス(SUS304)

膜厚0.6mm
試験片 ステンレス(SUS304)

膜厚0.1mm
試験片 アルミニウム(AL2024)

膜厚0.2mm
試験片 アルミニウム(AL2024)

膜厚0.6mm
試験片 アルミニウム(AL2024)

膜厚(ギャップ)と感度の関係
膜厚を0.1、0.2、0.6mmと変更した場合に、探傷器の感度を一定とするのではなく、1mm深さのスリットからの信号が同じ高さになるよう感度を調整します。
これにより、膜厚が厚くなる(プローブと試験体の距離が遠くなる)ことで、どの程度の感度差が生じるのかを確認します。また、1mm以外のスリットからのきず信号の高さが、感度調整により膜厚に関係なく同じ高さになるのかも確認します。
探傷条件
試験片 (JIMA ET TM-02) |
プローブと試験片の間隔t | 探傷器の設定 | 使用プローブ | |||
---|---|---|---|---|---|---|
GAIN*1 | FREQ*2 | ROT*3 | ||||
スリット深さd(mm) | 材質 | (mm) | (dB) | (Hz) | (DEG) | |
0.1 0.2 0.5 1.0 |
鉄 (S45C) |
0.1 | 34.8 | 8M | 138 | ペンシル型 自己誘導 単一方式 PS-.187 8MHz |
0.2 | 37.3 | |||||
0.6 | 49.6 | |||||
ステンレス (SUS304) |
0.1 | 46.2 | 8M | 74 | ペンシル型 自己誘導 単一方式 PS-.187 8MHz |
|
0.2 | 50.2 | |||||
0.6 | 59.4 | |||||
アルミニウム (A2024) |
0.1 | 42.2 | 500k | 256 | ペンシル型 自己誘導 単一方式 PS-.187 500kHz |
|
0.2 | 45.9 | |||||
0.6 | 60.5 |
*1 感度(GAIN)--- スリット深さ1.0mmで、V出力のピークを4vとする。
*2 試験周波数(FREQ)--- プローブの規定値とする。
*3 位相角(ROT)--- リフトオフを水平とする。
測定結果
膜厚が0.1mmの場合に比べ、プローブとの距離が遠くなる膜厚0.6mmの測定では、感度を13dB~18dBを上げる必要がありました。今回の測定では感度にはまだ余裕がありますが、極端に感度を高くするとノイズによりSN比が悪化します。厚い塗膜が施された素地の探傷を行う際には、注意が必要です。
また、鉄の測定においては、0.1mm、0.2mm、0.5mm深さのスリットからの信号高さは、プローブの距離が遠くなる0.6mm膜厚の方が全てが低くなっています。信号の高さからきずの深さを推定する場合は、この点についても考慮する必要があります。
*膜厚と感度の関係は、渦流探傷器の設定、使用するプローブの種類等により変わります。
膜厚0.1mm
試験片 鉄(S45C)

膜厚0.2mm
試験片 鉄(S45C)

膜厚0.6mm
試験片 鉄(S45C)

膜厚0.1mm
試験片 ステンレス(SUS304)

膜厚0.2mm
試験片 ステンレス(SUS304)

膜厚0.6mm
試験片 ステンレス(SUS304)

膜厚0.1mm
試験片 アルミニウム(AL2024)

膜厚0.2mm
試験片 アルミニウム(AL2024)

膜厚0.6mm
試験片 アルミニウム(AL2024)
